
写真1.タバコシバンムシ成虫
(背面)

写真2.タバコシバンムシ成虫
(側面)
近年、被害が増えている害虫としてタバコシバンムシ(写真1、2)が挙げられます。
幼虫は固形物の餌の中に潜伏して生活し、あまり徘徊しないため、殺虫剤が効きにくい虫です。 主に小麦粉や乾麺などの乾燥食品から発生しますが、それ以外にもいろんなものを食害することから、発生源を探し出すのに苦労させられます。 今回は、タバコシバンムシの発生場所の探索にヒントとなるような事例を紹介しましょう。
タバコシバンムシのフェロモントラップは、性フェロモンで主に雄を誘引して捕獲するものですが、誘引効果がとても高く、生息の有無を調べるのに最適です。 虫などいないと思われる新築したばかりの家屋でもしばしばトラップに多数捕獲されます。そこでこのトラップを家の中やベランダ、庭や公園などに仕掛けておくと、思ったよりも普遍的に捕獲されることに気付きます。 タバコシバンムシは従来から屋内害虫として知られていましたが、近年は住宅周辺の野外も含めたいろんな環境で生活していることが分かってきました。それらが屋内に侵入して良い餌にありつくと多発を招くことになります。

写真3.成虫の羽化脱出孔の付いたラット飼料
「発生源は不明だけれど、タバコシバンムシ(茶色の小さな甲虫)を良く見かけるようになった」という場合には、原因を突き止めたいものです。普通は小麦粉や麺類、スナック菓子などの乾燥食品が疑われます。
流し台の裏や冷蔵庫の下などに食品残渣がゴミと一緒に溜まっていると発生源になります。コショウや七味唐辛子などの調味料の小瓶の中から発生していることもあります。
そして和室に多い場合には、畳から発生していないかどうか調べます。最近では、ペットブームによるペットの餌からの発生、園芸ブームによる肥料からの発生も増えていますから、もし封を開けたままどこかに保管しているようでしたら、疑ってみることです。
羽化した成虫は穴を開けて出てくるので、孔(穴)を探すと良いでしょう(写真3)。以上のような情報は、気の効いた害虫の本などで調べてみれば得られると思います。しかし、ここからは私が実際に経験したあまり知られていない情報をお知らせしましょう。
発生源がないのに、少数のタバコシバンムシがしばしば見られるという某アパートでは、向かいの別のアパートの軒下に多数作られたスズメの巣が発生源でした。またツバメの巣からも100匹以上のイガ(衣類害虫)の幼虫とともにタバコシバンムシが見つかったことがあります。
ほかにも鳥の巣からは多くの害虫が見つかっており、鳥の巣は要注意です(富岡・中村,2000)。
某医薬品工場でも、発生源がないのに何故かこの虫が良く見つかるというところがありました。後で論文などを注意して見ていると、どうもペパーミントやメンソールなどのハッカ系の臭いが原因だったようです。 これらの成分は、ある程度多いと本種を忌避させますが、微量な気中濃度だと誘引させることが東北大学の堀先生の研究によって明らかになりました(Hori,2003)。

写真4.高級ドライフラワーの茎中に生息する幼虫

写真5.ドライフラワーの茎の食痕と中から這い出た幼虫
高層マンションの1室でタバコシバンムシの大発生を見ました。その時の発生源は、見えない場所に放置されていた大量のタバコの吸殻でした。また別のマンションでは、マジパンで作った装飾品や額縁が発生源になっていました。
マジパンの他にも最近はパスタで作った絵画や装飾品もあり、これらも要注意です。表面に小さな穴が沢山見られたら多分本種の仕業でしょう。写真4、5は装飾品の高級ドライフラワーの茎に発生していたものです。
このドライフラワーの葉は、本種と同じ食品害虫のノシメマダラメイガが好んで食害しますが、本種の方は特に茎を好むようで、茎の芯で複数の幼虫が発育していました。
このような発生源すら無いのに家屋に大発生したという事例も近年よく耳にします。タバコシバンムシは木材を加害しないので、昔なら畳が疑われました。 しかし近年は木材加工技術の発展とリサイクル資源や天然廃棄物の有効活用などをコンセプトとしていろいろ新しい材料が生み出されています。その1つが高粱の茎を原料に用いた合板(コウリャンボード:写真6)です。 床材や天井板、家具などにも使用されており、運が悪いと本種が大量に発生することがあります。この合板だけで発生できるかどうか発育試験を行った結果、室温30℃で平均2.5ヶ月(最短1.5ヶ月〜最長4ヶ月)で成虫が羽化することが分かりました(宮ノ下・今村・森本・富岡,2004)。 以前はこれを建材に使ったマンションなどでしばしば被害が発生しましたが、最近はこの合板には防虫加工処理が施されているようです。

写真6.コウリャンボード
最後に、つい先日発見した未発表の最新情報をお知らせしましょう。荷物を発送する時に、商品が傷んだり破損したりしないように詰める緩衝材というものがあります。以前はもっぱら発泡スチロールでしたが、最近は環境に優しい天然素材も使われるようになりました。 トウモロコシなどを原料としていますが、白くて弾力性があり、見た目は発泡スチロールとあまり変わりません。これが沢山詰まったダンボール箱を開けてみたところ、中がタバコシバンムシの発生源になっていました(写真7)。 写真のように、セロテープには羽化した成虫が付いており、加害された緩衝材はもろいスポンジ状となっていました(写真8〜9)。ダンボールの底には成虫の死骸(一部は生存)とともに粉状になった残渣物が大量に溜まっていました。
食品害虫のタバコシバンムシは、人間の科学技術の発展にうまく適応し、一見食品とは無縁に見える装飾品、ベニア合板、緩衝材にまで食性を広げています。環境にも人にも優しい天然素材はタバコシバンムシにとっても優しい素材だったようです。 このことは人がまた新たに害虫の地位を生み出したとも言えます。

写真7.タバコシバンムシが発生した緩衝材

写真8.写真7の拡大

写真9.緩衝材の食害前(左)と食害後(右)
参考文献
○富岡康浩・中村茂子(2000)
鳥の巣から見つかった昆虫類(1)特に衣類害虫および食品害虫について.家屋害虫,21(2):100−104.
○Hori,Masatoshi(2003)
Repellency of essential oils against the cigarette beetle, Lasioderma serricorne (Fabricius).Appl. Entomol. Zool.38(4):467-473.
○宮ノ下明大・今村太郎・森本彩佳・富岡康浩(2004)
新建材コウリャンボード使用の建物におけるタバコシバンムシの発生およびシバンムシアリガタバチによる刺咬被害,並びにコウリャンボードにおけるタバコシバンムシの飼育.家屋害虫,26(1):5−9.